そう、絵本の可能性も無限だと思うんです。今回は絵本の可能性を考えてみたいと思います。
アンジュール
ある日…
いつだったか忘れてしまったがとある本屋で衝撃の出会いをした。
ある絵本の表紙に目を奪われ、さらに『絵本の原点』という帯にも興味を湧き手に取らずにはいられなかった。
その表紙には物悲しい犬が1匹…
しかも粗い線の鉛筆のデッサンで描かれているだけのシンプルさ。
可愛いわけでも綺麗で楽しそうでもないそれは他の絵本とは異質であった。
さらに衝撃は続く。
どんな中身なのかパラパラページを巡ってもデッサンの絵のみ。
文字がないのである。
こんなに絵の力で人の感情を揺さぶる作品は他にない。
(※アンジュールとはフランス語である日という言葉である。)
あらすじ
作者が書いたのは絵のみ。作者は文字で何も表していない。
ここでストーリー、あらすじを紹介するが、推測のストーリーとなるだろう。
ここにもこの絵本の面白みがあるのだ。ストーリーが十人十色の可能性があるのだ。
車から1匹の犬が放り出される場面から物語は始まる。
車はそのまま走り去り、犬は必死に車を追いかける。しかし、車は止まることなく走り去りどんなに追いかけても距離は開くばかり。
とうとう車も見えなくなってしまう。それでも犬はにおいを辿りひたすら車を探す。
道路に飛び出す犬…
車同士が衝突し大事故になるが、犬は振り返りながらも歩き続ける。
やがて立ち止まり途方に暮れ、空に向かって遠吠えをする犬。
項垂れ、彷徨い歩き、ある街にたどり着くが店の人に追い払われる。
そこで1人の子どもと出会い…
この描写からデッサンのみであるにも関わらず
虚しさ、憤り、悲しさ、哀れさ、絶望の淵を垣間見たり、明るい光を感じたり…
様々なひとの感情を掻き立てられるのだ。
これほどまでの作品は他にない。
さらに何度みてもその時々差異はあっても静寂の中で、感情を毎度揺さぶられるのだ。
絵本の原点
これが、絵本の原点と言われる故んであろう。
絵が極限まで至った時、文字は必要ないのだろうか…
この作品には文字が必要なかったのだろう。
文字を一切使わないシンプルな本。
絵の力だけで、人の感情を揺さぶる作品。
絵本は自由なのだ。
人によって、見る時によって変化する。
ただ変わらないのは人の感情を揺さぶるということ。そこに無限の可能性を秘めている。
一度は手にして欲しい作品がこれだ。
原題:UN JOUR,UN CHIEN
著者:ガブリエル・バンサン
出版社:BL出版
出版年数:1986年5月